Arne Jacobsen & Fritz Hansen

アルネ・ヤコブセン

まるで機関車のように、アルネ・ヤコブセン(1902〜71年)はデンマークのデザインおよび建築業界を前世紀の半分以上にわたって牽引し続けてきました。その軌跡はいまもなお健在で、ヤコブセンがこの世を去って30年以上が経った現在も、私たちが急ぎ足で通り過ぎながらも憧れの眼差しを向ける建築物から日常生活で楽しむオブジェにいたるまで、ありとあらゆる場面でヤコブセンの存在を感じることができます。

ヤコブセンは、デザインというグローバルな舞台で輝くスターにもたとえられるでしょう。仕事をしていないときは——とは言いつつ仕事をしていたのですが——他のことをしていました。ヤコブセンにとってのリラックス方法は、創造性という世界のひとつのプロジェクトから別のプロジェクトにシフトすることでした。品質に妥協せず、これほど膨大な作品を生み出すことができたのは、そのおかげです。

いままで以上にアルネ・ヤコブセンのデザインは、私たちを取り囲む環境のイメージにおける明確な要素となり、私たちもまた、デンマークデザインのアイデンティティとしてヤコブセンのデザインを徐々に認識するようになりました。

もっとも優れたデザインは「The Hall of Famous Objects(著名なオブジェの殿堂)」に加えられ、長きにわたって継承されてきました。殿堂入りの理由とデザインの動機は問うまでもありません。そこでは時代を超えたクラシックな優美さを備えた20世紀のアイコンが一堂に会し、それらのサクセスストーリーこそが世界的なブランディングの根拠となっています。あらゆることが語られ、分析されつくしたなか、まだ語るべきことがあるのでしょうか?

複雑なものから限りなくシンプルなものへ——これこそが出発点となるアイデアです。当時は比較的少数のスタジオスタッフを抱えていたヤコブセンは、デンマーク国立銀行のような大規模かつ複雑な建築プロジェクトから、カトラリーのティースプーンといった幅広いプロジェクトをこなしていました。これらのプロジェクトには、建築物のトータルデザインとすべてのディテールへのこだわりというヤコブセンが目標を達成するうえで欠かせない、見えない力が一貫して作用していたのです。目標を達成するには、途方もない労力が必要でした。取り組みはじめた段階ではアイデアに十分なパワーがあると感じる一方、実際に試行錯誤しながらデザインを徹底して定義できるようになるまで、ヤコブセンはアイデアのとらえがたさを痛感していました。そんなときは、親しい仕事仲間がいつも支えてくれたのです。

最終的な結果とスケッチの驚くべき類似性、そしてスケッチの際立った正確さは——ヤコブセンが手がけた建築物を描いた多くの水彩画などはその代表例です——、アイデアを具現化するヤコブセンの才能を反映しています。ヤコブセンはもともと画家志望でした。それは、プレゼンテーション用のスケッチに込められた意欲の度合いからもはっきりと伺えます。

Design Visions