「空間は、さまざまな方法で私たちに影響を与えます」とベベは語ります。働く人に歓びをもたらすだけでなく、生産性を高めてくれる人間中心の空間を創るとき、ベベは行動心理学にヒントを求めます。「空間は、私たちの気分と感情、そして行動を左右します。そこには、生理学的な側面があるのです。自分の体が物理的に空間にフィットするかどうかや空気と光が足りているかといった基本的なことはすべて、私たちの周りの法則が解決してくれます。でも、許容される話し声のボリュームやひとりあるいは複数で作業する頻度のように、こうした法則の領域を超えた課題があるのも事実です」
オープンプランのオフィスを創ることには、経済的なメリットもあります。その一方で、仕切られた小さな空間で働くことにも同じくらいの文化的なメリットがあります。「オープンプランであれ、小さなオフィス空間であれ、どちらのワークタイプにも建設的な働き方のパターンと破壊的な働き方のパターンが存在します。何事も代償を伴うということです」とベベは指摘します。「問題は、どれだけ代償を払う覚悟があるかです。それも経済的な代償だけでなく、感情的な代償——従業員の満足度を得ることといい仕事をしてもらうために何を犠牲にできるか——にかかっています」。それは組織の種類と従業員に課されている日々の業務によって異なるとベベは考えます。「会社は、まず会社そのもののDNAをしっかり直視しなければいけません。ワークスペースをデザインするといって、ただ汎用的なものを創ることはもってのほかです。デザインは、その会社のコンテクストに沿ったものでなければいけないのです」。働く人を温かく人を迎え入れる生産的な空間を提供することは間違いなく重要です。その一方でベベは、デザインとはそうしたものを超えて、会社の“心”を取り入れたものでなければならないと考えます。
「私たちは、行動科学にもっと目を向けるべきです。マネージャーが部下の職場関係や働いているときの心理状態を考慮せずに業務量や達成率だけを見るのは、とても時代遅れです」。まずは会社の真のアイデンティティと基本的な価値観を知ることで、こうした情報を従業員のための新たな職場環境に落とし込むことができます。「温かく人を迎え入れるワークスペースの物理的な側面は、トップダウンの手法でもたらされなければいけません。会社として実現したいこととそのための行動を明確にする必要があるのです」とベベは続けます。「空間は、こうした価値観を反映したものであるべきです。それには、思い切ったリーダーシップが必要です。そうすることで、会社のDNAが物理的な方法で表現されるのです。ですが、こうした物理的な側面を超えた空間を人々に提供することも重要です。会社には、相互信頼とすべての人にとってベストとは何か? というコンセプトが浸透していなければいけないのです。従業員にも、自分に合った方法で働くという柔軟性が求められます。より多くの自由と責任、そして意義が与えられることで従業員の当事者意識は向上します」とベベは指摘します。
それでは、こうしたワークスペースを実現するにはどうしたらいいのでしょうか? その答えは、個人および集団での作業の円滑化に特化したシンプルな枠組みを創ることだとベベは話します。「オフィスの外にいるとき、私たちは自分に最適な場所で自由に働くべきです。チームとして集まるときは、相手の話を聞いたり、議論したり、学んだり、インスパイアされたりしながらひとつの空間で同じ時間を過ごします。パーティションで仕切られた自分だけのスペースにずっと座って作業をしたり、電話会議アプリで会話したりするだけなのに、どうしてわざわざ時間をかけて通勤する必要があるのでしょうか? 人間は、本能的に群れで行動する生き物です。私たちは、人生の意味や人とのつながりを求めています。私たちは、一緒に働くにあたっての効率的で意義のある方法を見出さなければいけません。これこそが温かく人を迎え入れるワーキングスペースの本質なのです」
「働くことの意義には、実際に自分の職場を“感じる”ことも含まれます。それは、色や家具の選択などの指標によって可能となります。たいていの場合、オフィスの机や椅子を選ぶのは受付の人だったり、その空間をエモーショナルなものとしてではなく、あくまで物理的に理解しようとした建築家だったりします。でも、それはワークスペースをデザインしたことにはなりません。大切なのは、文化に目を向けることです」。求められる行動指針や従業員と同僚たちとの接し方、仕事を任されるにあたっての心の準備などを明確に定めることで、より建設的に一緒に時間を過ごすことができます。「これらはすべて、組織レベルで実行されなければいけません。会議室だけをきれいに飾ってみんなが満足してくれると期待してはいけません」
ベベは、自然にインスピレーションを求めるべきだと考えます。「カオスでありながらも調和している。自然のこうしたあり方には、理由があります。すべてには理由があるのです。私たちは、ワークスペースについてよりオーガニックに考えるべきです。そうすることではじめて、意義ある方法で従業員を育ててくれる環境を創ることができます」